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歩行におけるCPGの機能とは ~なぜ長下肢装具での歩行が求められるか

こちらは2018年度の支部ナイトセミナーで実施させて頂いた『歩行におけるCPGの機能とは ~なぜ長下肢装具での歩行が求められるか~』のレポートになります。

セミナー後のアンケートに関する回答や、セミナー内でお伝えしきれなかった部分も合わせて載せていますので、是非復習にご活用ください。

注意
尚、セミナーでお伝えした内容は講師である私のフィルターを通してお伝えしている部分となりますので、一部論文考察などとは違った視点から考察しているような部分もあると思います。

ただ、皆様にも間違った形での内容をお伝えしない様、参考にした文献や書籍等も記載しておりますので、そちらも合わせて確認して頂きながら、情報活用をして下さい。

歩行をどう捉えるか

まずはCPGについて考える前に『歩行』というものがそもそもどういった状態で、何をみるべきなのかという視点をお伝えしました。

臨床場面でもそうなのですが、歩行分析や評価となるとどうしても正常歩行というものと比較して、歩行の良し悪しを見がちになってしまいます。

つまり、歩行はこうあるべきだ、こうならないといけないといった部分で、そこから逸脱した状態が異常歩行として捉えられてしまいがちです。

確かに、効率面でいえばそういった歩行も異常として捉えられてします可能性がありますが、そもそも歩行という動作がどういったものなのかを知る必要があります。

その中で、私自身は歩行をみる上での要素として3つの要素からみるようにしているということをお伝えしました。

それが重心・姿勢制御床反力の制御支持基底面生成という3つの要素です。

 

歩行における3つの機能

  • 重心・姿勢制御
  • 床反力制御
  • 支持基底面生成

実際に歩行においてそれら3つの要素がなぜ重要なのか?そしてそれをどう臨床的に解釈するかの部分の説明をしていきます。

重心制御で考えるべき歩行の要素

まずは重心制御という要素で、歩行というのを考える際に、実際の臨床場面での片麻痺患者さんの歩行をみると、その重心コントロールが非常に不安定になっているケースが多い印象です。

そもそも歩行というものを考える際に、歩行とはヒトという質量をもった物体がA地点からB地点まで移動するための一つの手段であって、そのためには物体自体の重心が動く必要があります。

地球上にある限り、その物体には常に重力という外力を受け、その外力に抗して運動する必要があります。

その抗する力を、我々人では姿勢を維持する機能として抗重力伸展活動といわれます。

そしてその伸展活動を支えるのが、抗重力伸展筋(例えば腸腰筋や大腿四頭筋、下腿三頭筋など)の筋緊張で、随意的な筋収縮ではないということです。

ここでなぜ随意的な筋収縮ではないかというと、常に随意的に筋肉を働かし、体を伸ばすということを行えば筋肉自体もそうですが、脳自体もそれだけで疲労を起こしてしまいます。

そして、そこに意識が向くことで座っておく、立っておくということに主眼が置かれ、その後の運動そのものが生じにくくなります。

なので、この時は随意的な筋収縮ではなく、本来筋肉自体に備わる張力を用いて、姿勢を保持する必要があるのです(俗にこれを姿勢筋緊張といいます)。

そして、この抗重力伸展筋の筋緊張を常に働かせ、重力とのバランスを取りながら、重心を移動し続けるのが歩行のメカニズムになるのです。

なので、歩行には随意的要素があまり必要なく(歩きはじめや方向転換、またぎ動作は別として)、重心制御によってオートマチックに歩行運動が可能となります。

その際に、下肢や骨盤・体幹、上肢がそれぞれ重心変化に伴い律動的に動くことで、重心移動に対する内力を高めることに繋がってくるのです(これを慣性モーメントといいます)。

つまり、歩行場面でみるべき要素として姿勢や歩容はもちろん大事ですが、それはあくまでの重心制御の結果であって、まずはこの重心をどう制御しているか(その際の抗重力伸展筋の筋緊張の変化)を臨床場面では感じる必要があります。

では健常者と片麻痺患者さんでは重心制御において何が異なるのでしょうか?

健常者では、踵接地から重心を徐々に上方へ移動(これを運動エネルギーといい)しながら、単脚支持期で最も重心が高い位置になるフェーズをむかえ、その後は重心を下降(位置エネルギー)させながら、次の立脚期の下肢へ重心を移動させるということが起こります。

それに対して片麻痺患者さんの麻痺側では、踵接地から重心の下降が生じ(膝折れ等の崩れ)、単脚支持期でも重心が上がらず、かつ単脚支持期の時間は短縮し、重心の下降も得られず、前方推進力が生じにくいという現象が起こります。

これが重心の上下の移動の変化としてみられる片麻痺患者さんの特徴です。

では、左右の重心移動はどうなのでしょうか?

引用元:筋骨格キネシオロジーより

基本的には、歩行中の左右の重心移動は4cm程度といわれ、目に見える重心の偏位はそれほど起こりません。

そして着目すべきポイントは、単脚支持期での足部で作られる支持基底面上に重心がのらないということです。

どういうことかというと、単脚支持期に重心をのせるということは、一側下肢の上に重心がくることで安定性が生まれます(静歩行の要素)。

実はこの安定性を生み出すことが、次の単脚支持期(反対側)への重心移動に対してブレーキになる可能性があるのです。

では何故、我々が重心が単脚支持期にのらずに歩行が可能になるのかというと、重心に対して加速度が生じ、その加速度が内力として作用することで重心移動を助けるというメカニズムに働くのです。

そして、その加速度を受けるだけの側方移動に対する筋の張力(ここでは主に中殿筋の筋緊張による張力)で重心を押し返すことができるのです。

しかし、片麻痺患者さんをイメージしてもらいたいのですが、患者さんは重心を麻痺側にのせようと必死になります。

ひとつは中殿筋などの筋張力の低下により重心が受け止めれないケース、ひとつは重心制御に対して代償的に麻痺側下肢へ重心をのせることで安定性を高めるケースなどです。

そして、我々セラピストの声かけもどこかで「麻痺側に体重をのせて」と言ってしまっている場面はないでしょうか?

つまり、一旦重心が麻痺側下肢へのってしまうことで、そこから反対側(非麻痺側)へ重心移動をする際に、より麻痺側での重心移動のための足部での押し付けが必要になってくるのです。

先程も言った通り、歩行とは随意的要素ではなく、重心制御の中でより少ない筋活動で、倒立振り子モデルのような重心移動によって移動を可能としています。

ここに随意的要素として下肢のswingが伴うことが、結果運動麻痺などを呈している患者さんに対して、下肢の共同運動を強めたり(それが原因で下肢の内反尖足を助長したり)、体幹側屈などでの代償を用いたり、骨盤を側方偏位させて重心をコントロールしようとする戦略をとってしまうのです。

そう考えると、重心制御という要素の中では、どういった機能が必要になってくるのかは、次の床反力制御が非常に大事になってくるのです。

床反力制御で考えるべき歩行の要素

では、次にみるべき部分として歩行中の床反力の制御という要素があります。

重心を動かすためには先ほどもお伝えした内力が必要になってきます。

では歩行においてどのように内力をコントロールしているのかというと、歩き始めなどで考えるとイメージしやすいのですが、前後左右に重心を移動させることで、身体への回転力を生むための内力を作り出します。

その際に重要になってくるのが、重心を移動させるための床反力の制御になります。

例えば歩き始めを例に考えると、両足で作られた支持基底面内の中央に重心があると仮定します(立位姿勢として安定している状態)。

歩き出すにはこの重心を支持脚に移動させることで、そこから床反力を用いやすくなり支持脚への重心移動を助けます。

さらに一度後方へ重心をさせることで、歩き出すために必要な身体の前方への重心移動を促すことで、我々は歩行におけるファーストステップが生じるのです。

その時に起こる床反力制御としては、支持脚とは反対(遊脚側へ)に重心が移動しそこから支持脚へ、さらに後方へ移動することで、前方への推進力が生まれ、遊脚側のswingが出現してきます。

このように重心移動に関して床反力を制御する要素が重要となり、時にはブレーキをかけたり、時には加速度を与えたりコントロールする部分が、唯一床と接する足関節の機能になるのです。

そして、これを一般的に足関節のロッカー機構と言い、これによって我々は床反力を制御しつつ、歩行に必要な伸展活動をコントロールしながら重心移動を円滑にすることが可能となります。

しかし、片麻痺患者さんではこの床反力の制御に対して、筋自体に備わっている張力や粘性要素、関節運動などが制限となり、円滑な重心制御に対してブレーキをかけてしまいます。

その際に重要なのが、運動麻痺や筋緊張の異常がなぜ筋肉には生じるのか(脳卒中が生じることによって)を知らなければ、この床反力制御も臨床の中でも中々理解できません。

ここの理解があるから始めて、なぜ立脚期に重心移動が円滑に行われず、ヒラメ筋などの作用により下腿が前方へ移動しないでロッキング(バックニー)になるかといった臨床解釈ができるのです。

そのためには運動麻痺がどういった筋への影響を及ぼすのか?そして筋緊張に対してはどういった脳機能が関与しているのか?などを知ることが必要になってきます(後ほど歩行の脳内機構として説明していきます)。

そういったことを常に歩行を見るうえでは明確にしながら、臨床場面での歩行の評価をする必要があるのです。

支持基底面生成で考えるべき歩行の要素

そして、最後にみるべき部分はどのように支持基底面を作り出すかという点です。

我々健常者は歩行中下肢の運動を細かくコントロールすることはありません。

遊脚期において、股関節をどれぐらい曲げる必要があるのか、その時に膝をどのタイミングで伸展させていくのかといった下肢の関節運動をコントロールすることは、実は意識的には行いません。

これがものを跨いだり、方向転換したり、意図的に下肢の接地位置を決める際は別ですが(いわゆるこれを意識的な歩行という)、通常は歩行は自動歩行といった先ほどの重心移動や床反力制御によって、その重心変化に応じて下肢関節に慣性力が働くことで遊脚期の下肢のコントロールが可能になるのです。

では、なぜそういったことが可能になるのでしょうか?

実はそこの機能に脳から降りてくる、中脳に存在するMLRといった歩行誘発野の働きが関与し、そして脊髄に存在するCPGが働くことで、下肢の運動パターンが無意識な状態でも起こることが近年いわれる歩行のメカニズムになるのです。

つまり、歩行中に下肢筋群を制御しているのが、まさしくCPGが持つ重要な機能となるのです。

これらCPGによる制御機構が破綻した際に、痙性パターンであるWernicke-Mann肢位を引き起こしやすいという点も脳と脊髄の関係性からお伝えしました。

つまり、Wernicke-Mann肢位が歩行中に出現する際は、これら重心の安定化や重心の移動をどうやってコントロールしているかを、臨床場面ではしっかり評価していくことが重要となるのです。

Wernicke-Mann肢位を作り出す原因ともなる皮質網様体脊髄路に関しては、こちらの脳画像の見方がすごく参考になるので、是非チェックしてみてください。

参考 皮質網様体脊髄路の探し方rehaidea

それでは具体的にCPGをどのように見ていけば良いのでしょうか?

CPGについて

CPGの機能については、河島らが様々な臨床報告もされているので是非ご参考にして頂きたいのですが、そこでは

中枢パターン発生器(Central pattern generator:CPG)と呼ばれる脊髄介在ニューロン群は、高位中枢と運動ニューロンの中間に位置し、歩行の基本的リズムを生成するとともに歩行に参画する筋群の運動パターンを決定する役割を持つ。歩行運動は高位中枢において計画され、CPGを含む下位運動中枢が基本的運動パターンを発現する。

と報告しています。

詳細は以下をご覧ください。

参考 歩行運動における脊髄神経回路の役割PDF資料

つまり、CPGが脊髄内に存在するということは、脳からの指令を遠心的に受けとり、そして、下肢筋群からの求心的な入力を受けるということになります。

その際の脳からの指令が、中脳にある歩行誘発野(MLR)という部位になります。

このMLRは中脳から脊髄に対して歩行に必要な筋群の活動指令を送るのですが、その前にヒトが動きたいと思い、行動する前の準備段階としての高次運動野(ブロードマンの6野)の機能が重要になるという部分をお伝えしました。

そして、この高次運動野は実は歩行だけでなく、随意運動を行うために前もって姿勢を制御する際にも働くということが近年報告されており、その役割を皮質網様体脊髄路が担うとされています。

だから、臨床的にもただ歩行介助をするのではなく、歩行させるためには、まずは患者さん自身が歩くといったことを自己決定をさせ(歩かされる歩行介助ではなく)、実際に歩きたいや歩こうということを認識してもらう必要性があるのです。

CPGが歩行の何を引き起こす

では、脳からの情報出力により脊髄内にあるCPGが駆動することで、歩行のどういった機能に影響を与えるのでしょうか?

普段の自分自身の歩行場面をイメージしてもらえれば良いですが、歩く際にどの筋を働かせ、どういった関節運動を起こし、それをどの程度の力加減でというように意識的に下肢の運動をコントロールすることはあまりありません

ただ、それでもある程度決まった歩行パターンで歩くことが可能になるのは、CPGがその筋活動パターンを決めているからだということになるのです。

では、どういった筋活動パターン(ここでは筋活動の組み合わせと考えた方がイメージしやすいですが)を作っているかというと、歩行中の下肢筋群パターンは、いくつかの筋活動パターンが組み合わさってできた形になります。

そして、それが歩行の各相においていくつかの筋群が歩行パターンのピーク値として活動したり、逆に筋活動を起こす必要性がない場合もでてくるのです。

これを筋活動のモジュールという形で表現されるのですが、特に大事なことは、歩行時の相においてある程度特異的に働く筋活動パターンが決まっているということになります。

様々な文献で、おおよそ健常者の歩行時の筋活動パターンは5通り程度と報告されているものがありますが、臨床的にみていてもこのあたりの筋活動が特に重要になるのではないかと私自身は思っています。

歩行における筋活動パターンの一例

  • 体重移動:大殿筋、大腿直筋、内側広筋
  • 蹴りだし:腓腹筋、ヒラメ筋
  • 足部クリアランス:大腿直筋、内側広筋、前脛骨筋
  • 脚の減速:ハムストリングス、前脛骨筋

そして、こういった筋活動パターンを作るためには、脳幹レベルからの情報出力のみではなく、末梢部にある感覚器から入力される情報も非常に重要になってきます。

歩行中に入力される感覚情報

特に歩行中に入力される感覚情報の中でも、立脚後期における下腿三頭筋、腸腰筋が重要ということが多く報告されています。

これらの筋群は、立脚期に十分な伸張性が得られることで、その後の遊脚期における力源となり(これをストレッチ・ショートニング・サイクルという)、より少ない筋活動での振り出しを可能としています。

ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)をイメージしやすくすると、バネを思い出してほしいのですが、バネはより伸張(伸ばされれば伸ばされるほど)すれば、その後に縮まる力もより強くなります。

この作用が歩行中における立脚期にあたり、その中でも下腿三頭筋や腸腰筋に伸張刺激が加わると、その後の筋が縮まる性質を使って、遊脚期のパワーとして蓄えられるようなメカニズムです。

何故、近年長下肢装具を用いた歩行が推奨されているかというと、実は早期からの歩行訓練の導入の重要性の他に、この立脚後期の下肢伸展活動が膝の制御が少なくなる分、その肢位を作りやすいという利点があるからなのです。

そして、特に歩行場面においては、立脚期で作られる下肢荷重位での筋腱への伸張刺激が、脊髄-筋レベルでの反射回路を形成することによって、遊脚期での筋活動への汎化にも作用していくという点をIb促通というメカニズムで説明しました。

そのため、治療介入のポイントとしても、この立脚後期を如何に作りだし、その時の筋緊張コントロールが脊髄-筋レベルで引き起こす反射回路の活性化に繋がり、遊脚期でのクリアランス確保に重要となってくるのです。

CPGに関するまとめ

歩行におけるCPGの機能については大きく3つの要素があるという部分をお伝えしました。

CPGの機能

  • 脊髄内に存在する(脳幹や筋からの情報の入出力を受ける)
  • 脳幹の活動には本人の歩きたいという自発性が必要
  • 感覚入力は筋や腱からの固有感覚が重要となる

そして、これら3つの機能があることで、歩行における下肢筋活動パターンを無意識下で作り出すことが可能となります。

そのためにも、臨床場面では、まずは患者本人の歩きたいという意思をどれだけ引き上げ、歩行における準備段階としての姿勢制御(姿勢筋緊張のコントロール)を作り出せるかが重要となってくるのです。

その際には、骨盤帯から上部(頭頸部や胸郭を含めた)のアライメントを整え、重心の安定化を図ることを評価する必要があります。

そして、下肢筋群の筋緊張を制御しながら、重心移動がどれだけ円滑に行え、歩行時のスムーズさに関与するかを評価し、問題部位があれば個別のアプローチが重要となってくるのです。

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