こちらは今年度(2019年度)から実施した脳外臨床研究会歩行セミナーにおいて、講師である私自身が大切にしている歩行を見る視点についてのまとめたものです。
そして、セミナーでお伝えする内容も、以下のことを基に歩行を分析・解釈するための指標としている部分になります。
近年は様々な歩行分析のデバイスが病院などでも導入され、より客観的に歩行を分析できることが可能となってきました。
しかし、病院以外の環境などでは、まだまだセラピストの主観に頼らざる得ない場面は非常に多くあります。
そうなった時に、何を指標に、何を問題解決の糸口として歩行を見ていく必要があるのか?
今回は講師である私自身が日ごろから臨床場面で考える歩行の評価の視点をお伝えしたいと思います。
是非、皆様の日ごろの臨床において歩行分析に難渋する方にとっての一つの視点になればと思っております。
ではスタート!
歩行について
まず初めに、歩行分析について日々私自身が臨床場面で行っている歩行をみる際のポイントをお伝えします。
よく歩行分析の重要性については問われることが多いですが、この分析をする際に何を指標とし、どういったことを共通理解していく必要があるのか、ここは非常に難しく、どうしても主観的な部分に頼ってしまう部分ではあります。
しかし、臨床場面ではある程度そこに明確さを持ち、ご自身の中で核となる部分を把握することが、ある意味臨床における歩行分析だと私は思っています。
その中で講師である私自身が大切にしている要素として、歩行を3つの視点からみている点についてお伝えさせて頂きます。
1.重心の位置
2.床反力
3.下肢・体幹アライメント
まずはこれら3つについてそれぞれお伝えさせて頂きます。
歩行をみるための3つの視点
まず、はじめになぜこのように考えるのか?それは歩行というものを力学的モデルで考えた場合、より効率な歩行機能獲得のためには重心移動という要素が必要になります。
まずは正常歩行で起こる重心移動の軌跡を理解すること、その中で患者様はどの部分で崩れが強くみられるのか、ここをまずは評価する必要があります。
特に重要な部分に関しては歩行時における重心の上下動の動き、左右の動きをまずはみる必要があります。
歩行周期の中で重心が最もあがる相はどこになるのか?
これは立脚中期(ミッドスタンス)に起こり、この周期(立脚中期)での重心の持ち上げが、次の立脚後期に必要な股関節伸展を引き出すための重要な要素となります。
この時期に重心が一番持ち上がることで位置エネルギーが高値となり、その後の立脚後期には重心が落ちるといった運動エネルギーに変換されることによって大きなパワーを必要とせず、立脚後期への移行が可能となるとされています。
そして、近年重要視されるのが、この立脚後期に伴う股関節屈筋群(腸腰筋)の筋伸張刺激が、次の遊脚期につながるCPG発火のトリガーだとされています。
そして、もう一つ歩行時の足関節背屈角度増大に伴うTrailing Limb Angle(TLA:大転子から第5中足骨頭へのベクトルと垂直軸のなす角度)に依存した足関節底屈筋群の活動が重要視され、この立脚後期を作ることが歩行における前方推進力に大きく影響を及ぼすということが多数報告されています。
しかし、実際の臨床場面での片麻痺患者様の歩行の多くがこの立脚中期での重心持ち上げが困難となり、股関節屈曲位への崩れを呈しやすく、そこから前方への重心落下が引き出せないことで、前方移動に対する加速度を体幹前要素で代償する必要がみられてきます。
なので、まずは歩行を考える際には、この立脚中期でみられるような重心持ち上げに必要な肢位が、静的立位の段階からでも可能かどうかを評価する必要性があります。
その際にまずは重心の位置がどういう位置にあり、それを左右や前後に少し移動させた際に身体機能反応としてどういった現象が起こるのか(例えば、麻痺側下肢へ重心を移動した際に麻痺側方向へ崩れていくのか、膝などが屈曲し、重心の位置が下がってしまうのかといったまずは簡単な評価から)をみていきます。
その際にもう一つ考えるのが、歩行は重心が常に移動し続ける動きになるので、その際に下肢(足底内の)のどの部分が、どのように接地(支持基底面を作るかによって)し、それに対してどういった力を返すのかといったことを理解・把握することで、実際の重心にかかる床反力の変化を見ることができます。
例えば、歩行の初期接地で重要な踵接地を考えていくと、床からの反力は足関節の軸に対して底屈モーメントを作り出し、その際の前脛骨筋の遠心性活動によって、下腿を前方へ引き寄せる動きへ変わります。
これを引き出すための実技などをセミナーでは時間をかけて実践していきます!
そして、それが、大腿へと波及することで、よりスムーズな前方への重心移動に繋がることが正常歩行の力学的な運動として捉えられています。
しかし、その踵接地が何かの理由で阻害されたとき、足尖支持となることで、足関節軸に対して加わる力は前方へ移動し、足関節に対しては背屈方向へと力(モーメント)が作用します。
それによって、下腿がそのまま前方へ崩れ(背屈方向へ)、結果膝折れ様の崩れを呈すか、もしくは床反力がその上の関節である膝関節軸の前方を通る床反力ベクトルの作用によって、膝の過伸展を引き起こしてしまう原因に繋がります。
こういったことを歩行の一連の中では評価し、なぜ膝折れが生じるのか、なぜバックニーが起こるのかを瞬時に判断・分析しなければなりません。
しかし歩行というのは連続動作であり、動作分析が苦手なセラピストにとってはそういった動きに関しても必ずしも現象のすべてをとらえることはできません。
そこで、歩行をまず見る前に、ある程度上記のような重心の位置や床反力がどう変化するかを臨床上簡単に評価できるようになれば、その後の歩行の評価がより明確になります。
その場合の評価を考えた際には、まずは立位場面での純粋な重心移動によっても、ある程度の重心位置の変化に対する身体反応をみることで、そのヒトはどの方向には重心移動がしやすく、どの方向へいくと崩れるもしくは下肢アライメントが変化するのかを評価することは可能になってきます。
そして、実際のステップや歩行場面での重心移動に対して、そもそも自身で重心移動が可能なのか、はたまた介助をすることで可能となるのか、そして、その際にどういった床反力の変化があり、どういった形で重心を制御するのかを胸郭を把持したハンドリングの中で感じていくことの重要性をお伝えしていきます。
つまり、歩行に対する治療介入を行った際にも、正常歩行に必要なフェーズ(今回でいうと踵接地そのもの)がでる・でないということももちろん大事になるのですが、それと合わせて、実際の歩行場面の中で重心の位置や変化がどのように反応性としてでているのかも評価できることで、歩行治療の効果判定になってくるのです。
そういった意味でも、上記3つの視点を考えながら臨床でのアプローチを考えた際に、何を指標に、何の目的でみるかによって、実際の治療の立て方も大きく変化していくことがありますので、是非今回の視点を日々の臨床場面で試してみてください。
こういったことを是非学びたい方は、一度脳外臨床研究会歩行セミナーに足を運んでみてください。
踵接地編は以下より(残り2会場)