歩行機能においてロッカーファンクション(ロッカー機構)の重要性については、歩行を一度は勉強したことがある方にとっては周知の事実かと思います。
ただ、臨床場面においてはこのロッカーファンクションをいかに作り出すかに難渋するケースが大半だと思います。
時には装具が必要になるし、仮に装具を付けてロッカーファンクションが使えても、装具がなくなった途端その機能がでなかったり・・・。
大事なことは、ロッカーファンクションそのものを理解するだけでなく、何が原因でこの機能が使えていないかを知ることだと思います。
今回はその中でも、最初に出現する「ヒールロッカー」について少し考えてみたいと思います。
ヒールロッカーとは?
まず考えるのが、ヒールロッカーそのものについてです。
ロッカーファンクションは歩行における立脚期に出現する、3つのロッカー機能から構成されます。
3つのロッカーファンクション
- ヒールロッカー(Heel Rocker)
- アンクルロッカー(Ankle Rocker)
- フォアフットロッカー(Forefoot Rocker)
これら3つのロッカー機能により、歩行時の立脚期における重心移動をより円滑にすることが可能となります。
その中でも立脚期においてまず初めに出現するヒールロッカーですが、これは踵を軸にして作り出される機能です。
このヒールロッカーのおいて大事なことは、踵でしっかりと体重を受けるということになります。
ヒールロッカーに必要な機能とは
そして、その体重を受ける際に、踵は踵骨やその表面にある脂肪体で立脚期における衝撃を吸収する役割を担います。
この踵で支えれる機能があるからこそ、適切な床反力が返ってくることで、下肢全体に対しても踏ん張るといった全体的な筋の出力が生まれてきます。
仮にこれがやわらかく、衝撃を吸収できなければたちまち、膝や足は重力に対して良肢位を保てず、バランスも崩れてしまいまい転倒を引き起こす可能性が生じます。
またそれだけじゃなく、骨の形状上、下腿を前方へ倒しやすいことから、踵から着くことは歩行の立脚相においては非常に重要な機能となるのです。
しかし、片麻痺患者さんの多くはこの踵から着くといったことが歩行場面ではみられず、ロッカーファンクションそのものが出現しにくい状態になっているのをよく観察します。
では、何故我々健常者はしっかりと踵から体重を受けられるのに、片麻痺患者さんでは踵から体重を受けることが難しくなるのでしょうか?
ヒールロッカーがなぜでない
実はそこには、運動麻痺による皮質脊髄路が非常に重要な役割をもつことが近年報告されています。
踵接地に必要な機能は、足関節を背屈位でキープ(保持)するということにあります。
つまり、遊脚期から足が接地する段階で、この足関節背屈位をどれだけキープし続けられ、そして、立脚期に移行できるかが実はヒールロッカーを作り出すうえでも非常に重要になってきます。
では、何故運動麻痺により足関節を背屈位でとどめることができないのかというと、実は運動麻痺というものの特性に関係します。
運動麻痺とは、随意運動の障害としては皆様ご存知のことかと思います。
運動麻痺に関してはこちらを参考にしてみてください。
歩行における運動麻痺の解釈に必要なたった1つの大事なポイントとは?足関節背屈運動において重要なのは前脛骨筋の働きになります。
これはMMTなどの検査においても、足関節背屈運動の主動作筋はもちろん前脛骨筋になります。
実は、歩行中の遊脚期における足関節背屈運動は随意的な要素(すなわち皮質脊髄路の活動)が最も必要な部分として活動を起こし、この前脛骨筋の活動そのものは随意的な足関節背屈だけでなく歩行においても同様に働くということが報告されています。
なので、運動麻痺が出現すると、随意運動としての足関節背屈運動が行えないだけじゃなく、歩行時においても踵から接地するための背屈位のコントロールが困難になるということです。
つまり、ロッカーファンクションの観点から考えた際に、片麻痺患者さんの歩行場面で運動麻痺の影響がでている場合には、遊脚期としての足を背屈位に保持できないという問題だけでなく、立脚期においても問題が出現していることになるのです。
ヒールロッカーを引き出すには
では、そういった問題が生じたときに、どのように歩行に対してアプローチをしていく必要があるのでしょうか?
ひとつは装具などを用いて、ロッカー機構を物理的に作ってしまうという方法もあると思います。
現に運動麻痺が重度の方には装具療法を用いた歩行の治療は非常に有用な手段となります。
では、その他には?というと、私自身は運動麻痺に対して直接的にアプローチをすることを臨床では行っています。
その際に気を付けることは、運動麻痺がどの程度出現しているのか?そしてどういった問題が歩行時の踵接地を阻害しているのかをしっかり評価することになります。
運動麻痺も重症度によってすべきアプローチの方法が変わってきます。
ただ単に、足関節背屈を引き出すために前脛骨筋に刺激をいれるといったことだけでは、中々歩行時の踵接地を促せるとは限りません。
そういった問題点があったときに、実際のアプローチはどういったことに気を付けながら実施するのか、それを今回「運動麻痺が及ぼす歩行の臨床的解釈」というテーマでセミナーの中でお伝えしていきます。
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