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運動麻痺回復ステージ理論とは?歩行治療に活かす臨床的解釈のポイント!

脳卒中患者さんの臨床場面で必ず難渋するのが、運動麻痺という問題!!

では、普段の臨床場面で、どのように運動麻痺をみていけば良いのかと考えると、現象としてみられる上・下肢の運動機能に目がいきがちではないでしょうか?

確かに、麻痺の程度により見られる上下肢の運動機能は様々で、それら問題点に対してどうすれば上下肢が自由に動くようになるのか、どうすればもっとスムーズに動くのかなど、臨床の中での悩みは尽きないかと思います。

しかし、そればかりに固執してしまうのではなく、実は脳機能から問題点である運動麻痺を見ていけると、臨床場面での治療介入のポイントが沢山隠されていることに気付きます。

今回は、運動麻痺における脳内メカニズムについて、運動麻痺の回復理論といった考え方について紐解いていきたいと思います。

運動麻痺とは

まずは運動麻痺とはそもそもどういった病態・症状なのかを簡単に考えてみたいと思います。

そもそも運動麻痺とは、

中枢神経系や末梢神経の障害によって主に四肢などの運動機能が喪失している状態を指す。

運動機能は、随意運動・不随意運動・協調運動などがあるが、一般的な運動麻痺は随意運動の障害を表す。

中枢神経障害による運動麻痺の発生メカニズムについて知るためには、随意運動の下行経路の理解が必須となる1)

(神経理学療法学:運動麻痺の章より引用)

とされています。

つまり、運動麻痺の問題は、中枢神経系である、大脳皮質(一次運動野)と、そこからの下行路である皮質脊髄路の障害によって引き起こされた随意運動の障害だということがわかります。

運動麻痺に関してはこちらもご覧ください。

歩行における運動麻痺の解釈に必要なたった1つの大事なポイントとは?

そして、この運動麻痺の問題は障害部位やその程度脳の回復段階によっても、大きく影響することが近年報告されています。

今回は、その中でも脳の回復段階に対して焦点をあて、Swayneら2)が提唱する運動麻痺の回復ステージ理論に関してまとめていきます。

運動麻痺回復におけるステージ理論とは?

Swayneら2)が報告している中枢神経再組織化におけるステージ理論とは、脳卒中発症から運動麻痺がどのような脳内機構の変化で回復過程に至るかをまとめた理論になります。

詳しくはこちらの原著をご覧ください!

参考 Stages of Motor Output Reorganization after Hemispheric Stroke Suggested by Longitudinal Studies of Cortical Physiology運動麻痺の回復ステージ理論

脳卒中発症後からの回復段階として3つの時期に分けられ、それぞれの時期により回復に関わる因子も変わってくるとされています。

時期については、発症か3カ月目を1st stage recovery、発症から6カ月目を2nd stage recovery、6カ月以降を3rd stage recoveryと分けています。

ここではそれぞれの時期において、どのように脳内機構の変化があるかについてまとめていきたいと思います。

運動麻痺回復のステージ理論

  • 1st stage recovery(発症~3カ月)
  • 2nd stage recovery(発症~6カ月)
  • 3rd stage recovery(6カ月~)

1st stage recovery(発症~3カ月)

この時期は急性期の時期に当たり、回復のメカニズムに関しては、残存している(損傷を免れた)皮質脊髄路の程度に依拠しており、その残存している皮質脊髄路の興奮性を高め、運動麻痺の回復を促す時期とされています。

上の図からも判断できるように、この皮質脊髄路の興奮性は急性期の時期から急速に減衰し、3カ月までには消失するとされています。

つまり、この時期に如何に残存している皮質脊髄路の興奮性を高めていけるかが運動麻痺の治療においては非常に重要なポイントになります。

では、その皮質脊髄路の興奮性をどのように高めていくのは、実際のセミナーの中でもポイントを絞ってお伝えしていく部分になっています。

各セミナー会場はこちら

大事なのは、この時期に運動が積極的に促せないことによる筋の二次的な変化(廃用や萎縮など)を如何に出さないかということが重要になります。

そういった意味では早期リハとしてもエビデンスが高い早期荷重、早期離床などは非常に重要な要素になってくると思います。

それに加えて、臨床場面で是非知っておいてほしいポイントが、どの程度皮質脊髄路の損傷が保たれているかという部分にもなります。

これに関してはこちらでも簡単に皮質脊髄路の見つけ方についても書いていますので、是非ご参考にしてみてください。

運動麻痺同定に必要な脳画像の見方!

1st stage recoveryのまとめ

  • 残存している皮質脊髄路を刺激しその興奮性を高める
  • 皮質脊髄路の興奮性は急性期から3カ月程度で減衰し消失する
  • 皮質脊髄路の残存程度を把握する

2nd stage recovery(発症~6カ月)

2nd stageでは、皮質間の新しいネットワークの興奮性がみられる時期であり、3カ月をピークにこのメカニズムが再構築するとされています。

ここでは、既存のネットワークでは運動出力が促せない(皮質脊髄路の損傷により)ことに対して、新しい皮質間でのネットワークが再組織化されることで、再び皮質脊髄路の興奮性を呼び戻すことがメカニズムとして起こります。

運動出力の皮質間の情報ネットワークは、主に一次運動野や高次運動野(6野)、そこと連結する大脳基底核や小脳などによって形成されますが、そこからの出力が障害を受けた場合は、他のネットワークを動きの中で脳内で引き起こす必要があります。

特に近年重要視されているのが、感覚運動野といわれる感覚野の機能も皮質間ネットワークにおいて重要とされているので、こちらに関しても今後セミナーの中で運動出力に及ぼす感覚野の重要性についてはお伝えしていきたい部分になっています。

非公開: 【大阪会場】感覚入力が及ぼす歩行の臨床的解釈

実は、この時期に関して重要なのが、脳卒中によって起こる脳内機構の変化になります。

患者さんをみていてもわかるのですが、この時期は特に意識障害も軽減し、患者さん自身も動かなくなった手足に対して、どうすれば動くかとより努力的に随意性を引き出そうと試行錯誤される時期になります。

そうした場合に、脳内では必要以上に皮質間の興奮性が高まるということもいわれており、この時期は大脳皮質がより興奮性を高めてしまいます。

そして、そこで学習した運動パターンや運動出力は、徐々にネットワークを強化していくことで慢性化しやすいというリスクももっているということを知る必要があるのです。

特に、この時期は回復期の時期になり運動量も増え、より日常生活場面に必要な動作練習が多くなる時期になります。

その時期に、間違った運動パターンや運動出力の仕方を学習するということは運動麻痺の観点からもみても、その後の運動麻痺回復に大きな影響を与えるとも考えられます。

つまり、歩行を例に考えると、この時期に代償動作が学習されやすく、この時期に生じた歩容などは中々改善しにくいということが問題点としても挙げられます。

ですので、特に回復期においてはどうすれば効率的に歩行ができるのか、そのためにはどのような運動出力を引き出す必要性があるかを臨床場面では常に考えながら、歩行においても量的な部分だけでなく、質的要素も考えながら治療をしていく必要性があります。

そういった意味でも、この時期に適切な運動負荷で、場合によっては適切な装具処方も行いながら、アプローチを考えることが重要となり、その中でもこの運動麻痺における回復ステージを加味した治療展開を考慮しなければならないということに繋がっていくのです。

2nd stage recoveryのまとめ

  • 皮質間の新たなネットワークが構築され、その興奮性が3カ月をピークに最も高まる
  • このネットワーク構築は6カ月程度で減衰し消失する
  • 運動の誤学習がその後の運動麻痺への影響を引き起こす

3rd stage recovery(6カ月~)

最後のステージでは、6カ月以降も持続して徐々に脳内ネットワークが強化されていく時期で、シナプス伝達の効率化がされる時期と言われています。

ここでは、2nd stage recoveryで再構築された新しい脳内でのネットワークシステムにおいて、それをつなぎ合わせ、反応しやすくするためのシナプス伝達がより効率化され、そのことで運動出力のためのネットワークがより一層強化されて、そして確立されていく機序が脳内では起こるとされています。

ここで大事なことは、その前の1st stageや2nd stageがあった上に成り立つもので、前述したそれぞれのステージに適切な治療がなされていないと、その後の機能回復や動作能力にも大きく影響するということがわかります。

つまり慢性期の場合は、それに応じた治療展開が必要になってきますが、それまでの急性期から回復期において如何に脳内メカニズムを考慮した治療ができるかが重要になってくるのです。

この時期については、また詳細をまとめて記事にしていきたいと思っています。

まとめ

そういった意味でも歩行という場面だけを取り出してみても、ただ歩行をバイオメカニクス的視点で捉えるだけでなく、そしてただ反復することによる量的な治療介入をするだけでなく、こういった脳内機構を加味しながらの治療展開を常に考慮しながらアプローチをしていく技術が必要になってくるのです。

そういった意味でも、当セミナーで実施する歩行セミナーでは、歩行をバイメカや脳機能それぞれでみていきながら、それに応じた治療的アイデアをお伝えすることをコンセプトに活動していきたいと思っております。

なので、是非興味がある方は歩行セミナーに足を運んでいただき、日ごろの臨床場面での悩みや疑問を一緒に解決できるよう学んでいきましょう!!

当ホームページではこういった歩行に関する情報を定期的に発信していきたいと考えています。

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引用・参考文献

1)奈良勲ほか: 標準理学療法学 神経理学療法学. 医学書院,東京, 2013

2)Swayne OB ,et al:Stages of Motor Output Reorganization after Hemispheric Stroke Suggested by Longitudinal Studies of Cortical Physiology:Cereb Cortex 18:1909–1922,2008

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